自転車にんげん

先日、図書館まで自転車で行きました。

仕事を始めてから、さっぱり乗る機会が減った自転車ですが、やっぱりいいですよね、自転車。風が心地よいんです。このまま風にのってどこにだって行ける! これが自由なんだ! 私はシャリリリリと回る車輪に身を任せ、ひとときの自由を噛み締めていました。


ただ、私は忘れていました。自転車は爽快感を与えてくれるのと同時に、小さな不安をもたらすことを。


前に小さな子連れのお母さんが歩いていました。私はなぜか反射的に、気付かれないように、こっそりと追い抜こうと試みました。そう、なにか嫌な予感がしたのです。ですが、そこは子連れのお母さんです。いとも簡単に捕捉され、言われました。あの言葉を。


「ゆう君! 自転車っ!!」


ゆう君はパッとこちらを振り返ると、ただの自転車を見る目つきで私を一瞥し、そそくさと離れて行きました。私はゆう君の目も見られないままに小さく会釈して、その場をしのぎました。


そうです。これです。この感じ。あれ? 私はなんなんですか? 自転車なんですか? いいえ私は自転車に乗ってるにんげんです。


「私は自転車じゃないっ!」


気付くと私はひとり雑踏の中、空を見上げ声を張り上げていました。自転車に跨ったまま。
ふと足下を見ると、仮面ライダーがプリントされているハンカチが落ちていました。

私はそれを拾い、ゆう君のもとに急いでペダルをこぎました。
ゆう君とお母さんの背中はすぐに見え、私は自ら声をかけました。
「すみません、ハンカチ、落ちてました。」
するとふたりはくるっと振り返り、ハンカチを一瞥し「違いますけど?」と不快そうに言い、立ち去って行きました。

私は自転車に跨ったままその場に立ちずさみ、仮面ライダーがプリントされているハンカチを眺め、ふと、仮面ライダーもバイクで走っていて、子連れのお母さんに「ゆう君! バイク!!」って言われたことあるのかなーっと思う夢をみました。まさかの夢オチ。


でも、自転車乗ってるときに、歩行者の方に「自転車っ!」って言われると心がざわってします。